何もかも失くしました
「京都南救急です。48才男性、吐血の患者さんです。先生、受け入れいいですか?」
「藤井さん、内視鏡でエタノール局注するから準備して。」
「わかりました。」
「処置、終わりましたよ、お疲れ様でした。しばらく入院して検査と治療になります。」
「看護師さん、僕ね、仕事も家族もなくして、1人になって、酒ばかり飲んでたんです。もう、死んでもいいと思って…。」
救命の医療で、クライアントの疾病を引き起こした主訴に対して、ただ聞いてる事だけが辛かったと記憶が残っています。
救命の現場で、クライアントの心の治療がしにくいのが、現状です。
心を痛めたクライアントが、自傷行為をして救急車に乗って病院へ運ばれてくる事はごく当たり前にあります。
リストカットや薬物毒物による中毒、飛び降り飛び込み事故と様々です。
医療の現場にいたら、その方の思いとは反した治療をせざるを得ないのです。
助けられた命に向き合って生きて行かなければならない、その命にどう向き合うかを考えれば、いつの日も課題はあるものなのです。
「看護師さん、私、何もかもなくしてしまいました。」と、泣いて語るクライアントの肩を撫でる事しか、出来なかった記憶が強くて残っています。
執筆者:坂田琴絵
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