あなたは看護師失格よ
17年前 、渡辺淳一さん執筆のエ・アロールのシナリオを思い描き、老人ホームで健康管理の勤務を始めました。 周辺には、神代植物公園や井の頭公園・三鷹の森があり、年長者様の外出アクティビティでは、四季折々の植物や美術鑑賞を楽しんだりしていました。 そんな自由な時間を過ごしている年長者様は闊達で、日頃の身体の不調からくるネガティブな感情は、お忘れの様でした。 シナリオにある恋愛ドラマを目の当たりにする事はなく、お一人おひとりがご自身のペースで日常を過ごされていました。 現場での業務は、度重なる壁に悪戦苦闘し、寄り添うどころか跳ね除けられる日々でした。 思い通りに行かぬジレンマと向き合う年長者様達は、矛先を言いやすい職員に向けていたのです。 当時、ナースとしてのキャリアは10年程で、老年看護の経験も浅く、多くの経験を重ねた人生の先輩に対しての関わりも未熟な若輩者の私が、苦戦して当然だったと思います。 関わりを受け入れて頂けなかったり、立ち振る舞いにお叱りや助言を頂いたりしながらの日々でした。 師範学校の先生をされていた年長者様から、私の存在を受け入れて頂けて、心の内(身体の不調)をお話しして下さった時は、やり甲斐を感じました。 ある日、お預かりしているお薬のことで、ご立腹された年長者様から罵詈雑言が飛んできました。 担当医が処方している薬を飲まないと拒否し、かなり気分が高揚してしまったのです。 私に薬を預けたから調子が悪くなった、信用できないと「あなたは看護師失格よ!」と罵られました。 老年看護は奥が深くわからないことを学び、出来ないことを出来るように努力しました。 保育園に通う娘の養育と家事との両立の中で、疲れた心体から涙が溢れてきました。 そんな時、現場の仲間がいつも助けてくれました。 だから、年長者様に寄り添うことを続けられたのです。 亡き年長者様が教えてくださった全ての事柄が、私の財産であります。