開かずの間
愛猫の大我は二本足で立ち、前足でドアレバーを下げ器用に扉を開ける事が出来る。 「ねぇ大我、この部屋には入らないで。」 起きてはいけない事実が、この部屋には秘められている。 自分の都合で決めた開かずの間は、一年半も封印された空間となっていた。 時間と能力があったとしても、この部屋を自分ひとりの力で活かす事は出来ない。 第三者の尽力を借り、ようやく少しづつ前向きに日常を過ごせる様になってきた。 娘が環境教育のキャンプで作った魚拓には、パパに宛てた手紙が添えられている。 お父さんの日にプレゼントした肩たたき券や、お父さんの職場見学でのエピソードの記録が残されている。 飾られた家族写真は、パパが桜の木の下で娘をお姫様抱っこしたり肩車したり、那須高原で撮ったプリクラやお誕生日の写真等が、消せない記憶を物語っている。 気合い!気合い!気合い! 片付ける!捨てる!忘れる! 本やCDやDVDそしてゲーム。 SDカードやUSB、CD-ROM ここにはアルバム。 あれもこれも、どうしよう…。 気がつけば呆然と立ち尽くし、現実逃避したい自分がここにいる。 開かずの間を開けると、家族がバラバラになる日から約10年の歳月が流れたと伴に、家族が築き上げた思い出や品々までもが、バラバラになる瞬間を受け入れなければならないと言う試練があったのです。