無上道の教え

 「私なんでここにおるん? 痴呆やから病院に通ってるんか? ぎゅっと閉じ込められてるみたいで、家に帰りたいねん。足がだるぅて外、歩きたいねん。お稽古も行きたいし、注射打ったのに、まだコロナあかんのか。」

緊迫した趣きのある表情が緩めばいいと思った。

「ローズさん(仮名)ここで生活をしているのは、ご子息がお母さんの事が心配だから、ここで生活して下さいと来られたのですよ。認知症だから病院へ行くとは聞いていません。お身体に不調がないか、定期的にお医者さんに診てもらっているのです。その時に、必要なお薬を出してもらってるんですよ。

ローズさんは、『大きな家にひとりでいるのは怖いねん。』と仰っていましたよ。子供の頃に疎開先で怖い思いをしたとも仰っていましたよね。ご自宅に帰られたらまたそんな怖い思いをされますよ。

少し涼しくなったらお散歩に行きましょう。庭には夏の花や野菜が実っていますよ。

お稽古は、ここでの生活で一緒にしましょう。

お茶にお花、書写に手芸、歌の時間もありますよ。」

ローズさんの今日1日が晴れでありますように♡

同じ事の繰り返しかもしれない。

そんな日常に、沢山の笑顔があります。

疲れた私に、笑顔を返して下さるのはいつも側にいる年長者様です。

お母さん、産んでくれてありがとう。


〜年長者様からの教え〜

この世は苦悩との歩みなのだから、浄土からの幸福を築く事が出来れば、ひとりの時間も平穏であると実感できるものである。

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