自然と笑顔になる瞬間




「桜の花が満開ですよ。」

ご自身で、思う様に体を動かせない方々に寄り添う時、私に思いを伝えて下さる患者様がいた。

「貴女は難しい仕事をしているね。」

「え?」

「だって、自分で痰を出す事が出来ない僕を助けてくれるんだもの。ほっといたら死んでしまうだろう、だから偉いよ。他にも僕みたいな患者さんがいるんだろう。そんな患者さんも見てるだなんて、本当に立派だよ。」

偉いと思った事はありませんが、仕事が出来る様に努力はしています。〇〇さんが、笑顔で過ごして下されば嬉しいのです。


患者様の体に触れた時、

「あぁなんて冷たい手、温めてから来てよ。看護師さんが痛くするんじゃないかと思って怖いんだよ。」

温めた手で脈に触れても、恐怖からその手が冷たく感じる。

痛くされるかもしれないと緊張した体は、硬く拘縮していく。


ご自身の思いを伝える事が出来ない患者様は、目を見開いてアイコンタクトを送って下さる。

苦しかったり、痛かったり、不安だったり…

そんな思いをしてほしくない。

患者様が、クライアントが、携わる方々が、少しでも安楽な時間を過ごしていただければ、私も安楽である。


戦時中に生まれた両親は、辛い記憶の中、大人になった。

子供の頃、いつも側に居てくれた父や母が、笑ってくれた時が嬉しかった。

ターミナルケアで、辛い時間を過ごす母が、笑ってくれた時が嬉しかった。

母の安否を気遣い、私から母の容態を聞き安堵し、笑顔になった父の側にいる事が出来て嬉しかった。


お母さん、桜の花が綺麗に咲いたよ。

野花もたくさん咲いてるよ。










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